はじめに
「今日の晩めし、何にする?」──つい先日、家族との会話でそう言った瞬間、小学生の娘に「”めし”って言い方、なんか乱暴だよね」と指摘されました。たしかに「ご飯」に比べて粗っぽいイメージがある「めし」。でも実は、この言葉、もともとは「召し上がる」という尊敬語から生まれた、とても上品な言葉だったのです。
「めし」という言葉の語源を知れば、食卓での会話がちょっと楽しくなるかもしれません。この記事では、「めし」の意外な由来から「ご飯」との違い、さらには室町時代以前の呼び名まで、日本語の歴史をたどりながらわかりやすく解説します。
「めし」の語源は「召し上がる」?意外すぎる由来を解説
「めし」は「召す(めす)」の名詞化
「めし」という言葉は、動詞「召す(めす)」の連用形「召し」が名詞化したものだと考えられています。「召す」とは、古くは「呼び寄せる」「着る」「乗る」「食べる」など、さまざまな行為を表す尊敬語でした。このうち「食べる」の意味が名詞となり、「召し上がるもの」すなわち「めし」という言葉が生まれたのです。
「召し上がる」は食べるの尊敬語だった
現代でも「召し上がってください」という表現が使われるように、「召す」は「食べる」の尊敬語として長く使われてきました。もともとは貴族や武士など身分の高い人々が食事をする際に使われる、格式のある言葉だったのです。つまり「めし」は、現代の感覚とは正反対に、本来は非常に丁寧な言い方だったことになります。
つまり「めし」=「召し上がるもの」という意味
まとめると、「めし」の語源は「召し上がるもの」という意味です。現代では「めし食おうぜ」などカジュアルな印象がありますが、言葉の成り立ちをたどれば、尊敬の意味を込めた由緒ある表現だったことがわかります。
「めし」はいつから使われていた?室町時代にさかのぼる歴史
室町時代に「めし」が登場
『日本国語大辞典』によると、「めし」という言葉が使われ始めたのは室町時代のことです。それまで米を炊いたり蒸したりしたものは別の呼び名で呼ばれていましたが、室町時代になって「めし」が登場し、現在と同じような意味で使われるようになりました。
さらに「御めし(おめし)」という丁寧語も存在した
興味深いことに、室町時代後期には「めし」にさらに「御(お)」をつけた「御めし(おめし)」という言い方も存在しました。当時の人々も「めし」だけでは何となく卑俗に感じたのか、より丁寧に言おうとしたようです。敬語の上に敬語を重ねるという点では、現代の私たちと同じ感覚を持っていたのかもしれません。
江戸時代以降に「日常語」として定着
「めし」が日常語として広く使われるようになったのは江戸時代以降のことです。この頃になると、かつての敬語としての意識は薄れ、庶民の間でも普通に使われる言葉になりました。「食事一般」を指す意味で使われるようになったのもこの時期からです。
「めし」の前は何と呼んでいた?「いい(いひ)」の時代
奈良時代・平安時代は「いい(飯)」と呼ばれていた
室町時代に「めし」が登場する以前、日本人は米を炊いたものを「いい」(歴史的仮名遣いでは「いひ」)と呼んでいました。この呼び名は奈良時代から使われており、『万葉集』にも登場します。
有名な例が、斉明天皇の時代に処刑された有間皇子(ありまのみこ)の歌です。
「家にあれば 笥(け)に盛る飯(いひ)を 草枕 旅にしあれば 椎の葉に盛る」(万葉集 巻一・一四二)
この歌の「飯」は「いひ」と読みます。「家にいるときは食器に盛るご飯を、旅の途中だから椎の葉に盛っている」という意味で、当時の食文化を伝える貴重な一首です。
「いい」→「めし」→「ごはん」の変遷
日本語における「ご飯」の呼び名の変遷をまとめると、大まかには「いい(いひ)」→「めし」→「ごはん」という流れになります。約1300年以上かけて、呼び名が少しずつ変わってきたことがわかります。言葉は生き物のように変化するものだということを、「めし」の歴史は教えてくれます。
「ごはん」の語源は?「めし」との違いを比較
「ごはん」は漢語「飯(はん)」に「御」をつけた言葉
「ごはん」の成り立ちは「めし」とはまったく異なります。室町時代に中国から伝わった漢語「飯(はん)」が日本で使われ始め、やがて宮中の女房ことばとして「御(お)」をつけた「御飯(おばん)」という形が生まれました。
「御飯(おばん)」から「ごはん」への変化
「御飯(おばん)」という言い方は江戸時代を通じて使われ、江戸時代末期になると「お」が「ご」に変わり、現在の「ごはん」の形になりました。つまり「ごはん」は、漢語に日本語の丁寧語を組み合わせた、いわば和漢折衷の言葉なのです。
「めし」と「ごはん」の違いは丁寧さだけ
「めし」と「ごはん」は、成り立ちこそ異なりますが、指しているものは同じです。現代では「ごはん」のほうが丁寧でフォーマルな印象があり、「めし」はカジュアルな印象がありますが、意味の違いはありません。どちらも「炊いた米」「食事」を表す言葉として使われています。
なぜ「めし」は下品に聞こえるようになった?敬語のインフレとは
「敬意漸減(けいいぜんげん)」という現象
言語学には「敬意漸減(けいいぜんげん)」という概念があります。これは、敬語が繰り返し使われるうちに、その敬意が徐々に薄れていく現象のことです。「めし」もまさにこの現象の典型例といえます。もともとは尊敬語だった「召す」から生まれた言葉が、使い続けられるうちに敬語としての意識が失われ、やがて俗語のような印象を持つようになったのです。
「貴様」「お前」も元は敬語だった例
同じような変化を遂げた言葉は他にもあります。たとえば「貴様」は、江戸時代には手紙の宛名に使われる敬称でした。「お前」も、もともとは「御前(おまえ)」という尊敬表現です。これらの言葉が現代ではぞんざいな印象を持つようになったのも、敬意漸減の結果です。
時代とともに言葉の印象は変わる
言葉の印象は時代とともに変わるものです。現在「丁寧」と感じる言葉も、数百年後には違う印象になっているかもしれません。「めし」が下品に聞こえるのは、言葉本来の意味の問題ではなく、長い年月をかけて起きた自然な変化の結果なのです。
「めし」と「ごはん」の使い分け|現代のマナーと印象
フォーマルな場では「ごはん」「食事」が無難
現代社会では、ビジネスシーンや目上の人との会話では「ごはん」や「食事」を使うのが無難です。「めし」という表現は、フォーマルな場ではくだけすぎた印象を与える可能性があります。面接や初対面の相手との会話では避けたほうがよいでしょう。
「めし」はカジュアル・親しい間柄向け
一方、友人同士や家族との会話では「めし」もごく自然に使われています。「めし行こうぜ」「晩めし何にする?」といった表現は、親しみやすさを感じさせる言い方です。TPOに応じて使い分けるのがスマートな日本語の使い方といえます。
男性語・女性語のイメージは薄れつつある
かつて「めし」は男性的な言い方、「ごはん」は女性的な言い方というイメージがありました。しかし現代では、このような性別による使い分けの意識は薄れつつあります。カジュアルな場面であれば、性別を問わず「めし」を使う人も増えています。
よくある質問(FAQ)
Q1:「めし」は方言ですか?
A1: 方言ではありません。「めし」は室町時代から全国で使われている日本語で、特定の地域に限った言葉ではありません。
Q2:「めし」を女性が使うのはおかしいですか?
A2: 現代のカジュアルな場面では、性別を問わず使われています。ただし、フォーマルな場では「ごはん」を選んだほうが無難です。
Q3:「飯(はん)」と「飯(めし)」の違いは?
A3: 漢字は同じ「飯」ですが、「はん」は音読み(中国語由来)、「めし」は訓読み(日本語由来)です。成り立ちがまったく異なる読み方です。
Q4:「めし」以前の「いい」は今も使われていますか?
A4: 現代ではほとんど使われませんが、「強飯(こわいい)」(もち米を蒸したおこわの古い呼び名)などの言葉に名残が見られます。
Q5:「召し上がる」と「めし」は関係ありますか?
A5: はい、直接関係しています。「召す」の連用形「召し」が名詞化して「めし」になったと考えられており、語源的には同じルーツを持つ言葉です。
まとめ|「めし」の語源を知れば会話のネタになる
この記事では、「めし」の語源と歴史について解説しました。最後に要点を3つにまとめます。
1. 「めし」の語源は「召し上がる(召す)」であり、もともとは尊敬語だった
現代では粗っぽい印象がありますが、言葉の成り立ちをたどれば、とても上品な表現だったことがわかります。
2. 「めし」→「ごはん」への変化は、敬語のインフレーションによる言葉の自然な進化
敬語が使われ続けるうちに敬意が薄れていく「敬意漸減」という現象は、日本語の歴史の中で何度も起きてきました。
3. 現代では「ごはん」が丁寧、「めし」がカジュアルという使い分けが一般的
TPOに応じた使い分けができれば、どちらも適切に使える言葉です。
「めし」の語源が「召し上がる」だったという雑学は、食卓での会話や友人とのおしゃべりのネタとしてぴったりです。ぜひ、今日の「めし」の席で披露してみてください。
※注意: 語源については諸説あり、本記事では最も有力とされる「召す」由来説を中心に解説しました。言葉の歴史には不明な点も多いため、「定説」として断定せず、「〜と考えられている」という表現を使用しています。

